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「知の大競争時代」に漕ぎ出す

社会科学総合学術院長 
(社会科学部長・社会科学研究科長)教授 
多賀 秀敏 「グローバリゼーションが進行する現代世界では」という決まり文句があります。もっぱらその要因は、科学技術の発達によって、ヒト、もの、金、そして情報の革命的な移動能力の変化に帰せられます。人類は、たった5年、10年前ですら想像もしなかった能力や可能性を手にしました。同時に、これまで体験したことのない新しい問題、解明の糸口さえ分からない複雑な問題、地球規模の巨大な問題、即座に解決を要する緊急な問題に遭遇しています。

 こうした問題に対処し解決するためには、従来の発想をしのぐ複眼的思考、既存の学問の壁を越えたアプローチ、果敢なチャレンジ・スピリット、知の速力、知の柔軟性が要求されます。「知の大競争時代」といわれる所以です。

 ところが、知の拠点である大学への進学者は、この地球上で100人に5人もいません。さまざまな事情から進学を断念した人、早くから別の人生を歩む人と理由はいろいろありますが、大学進学者が圧倒的少数である事実は厳然としています。その少数の中のひとりのあなたを確固とした目的や崇高な使命を帯びて入学してきた学生として、本学部は受け入れています。

 本学は、他の学部とは異なり、単に専門的知識や技能に優れた「人材」を輩出するだけではなく、望ましくは、ひとつの専門をマスターし、学際知の獲得によって物事を複眼的・総合的に理解でき、実習などによって実践力を有する「人物」を育成しようと考えています。

 どのような学問にも基礎と応用とがあります。また、それぞれの分野で細分化と総合化とが進行しています。私は個人的には、社会科学は、社会を正す学問として理解しています。その意味で、本学部が目指す専門と学際知と、人の健康を維持し疾病に対処する医学とのアナロジーを試みることがあります。

 大きな病院に行くと体の部位や疾病の種類に応じてたくさんの「科」があります。病院では、臨床、すなわち、医学の実践が行われています。しかし、医学が臨床だけで成り立っているのではないことは、だれの目にも明らかです。この実践の背景には、多様で膨大な基礎医学が存在します。細菌の研究、入れ歯の素材の考究、ファイバースコープの改良、薬剤効果の実験、細胞の研究等々、限りない数の広大な分野に跨る研究が行われています。そして、忘れてならないのは、生命体としてのヒトを総合的に研究する科目もあります。

 私は、社会科学は、「社会の健康維持」に対する処方箋を生み出すために、社会を、さまざまな角度から、時にはパーツに分けて、観察、測定、記述、分析、予測して、あるべき状態に持っていく政策を形成する学問であるという視点を強調したいと思っています。「角度」は専門を、「パーツ」は基礎を意味することもありえます。そして単一の現象であれ、全体であれ、総合的に考察するのが学際研究です。 残念ながら、社会科学には、純粋な実験や、あるべき状態についての一致した見解の存在が常に保証されているわけではありません。人は、それぞれ異なる価値観を持っているからです。それでも一定の社会単位で導入することが決定された政策は、「処方箋」の実行とみなすことができます。その場に居合わせる社会科学の学徒にとっては、実習の場であり、実践の場といえるでしょう。

 病気を治す医師を「小医」、人間を癒す医師を「中医」、社会を直す医師を「大医」といいます。社会科学部は、「大医」を育成します。そのために、学部は4年間をフルに使って、最低でもひとつの専門と、総合的見識を身につけるカリキュラムを構成しています。

 最終的に学際知、総合的見識を身につけるためには、早くから、現代社会の抱えるさまざまな問題の中から、あなたが学ぼうとする専門の周辺に密接に位置する問題を自分で発見して、そのテーマに沿った科目を選択して履修することも、ひとつの方法といえるでしょう。逆に、低学年のうちに幅広く講義を選択して、自分の専門を探し出すのも遅くはないでしょう。

 また、本学部の在学生に対しては、あらゆる機会を捉えて世界の現実を知るための支援を惜しまずに提供しています。知の大競争時代に、世界に開かれた社会科学部の学生は、他では得られない学際知を携えて、社会科学部発地球行きの大冒険に漕ぎ出したといえるでしょう。

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